その609

 起こったことが世界を作っている。起こっていないことは起こっていないのだから、どこにも実在しない。実在するものだけがある。実在することは精神のうちにのみある。ものはコトが集まってものになるが、そのものができるためのコトのすべてを知らない。われわれの認識内にあるコトは、どんなものを作り出すのにも不足しているのではないか。一個のりんごであっても、それが出来上がり実在するために必要なコトのすべてを我々は知っているだろうか。

 起こっていることがあるというのは、起こっていることが我々の精神のうちでコトとして実在していることを意味する。コトが起こるのは精神の内側においてのみではないか。確かに世界ではさまざまなコトが起こっているが、それは我々と世界の関係性の上において実在するコトだ。コトとはものを分けることで実在する。もののうちに含まれる現象を捉えることで生じるのがコトだ。