その598

 ある風は一塊にないか。むろん、その風はその風の外部の影響下にあるが、それは一個のりんごがそこに実在するためにその外部からの影響下にあることと同じ意味である。ある風がどこまで吹いているか、その風にはその全体があるのかどうかはその風の流れを追えば判明するのではないか。流れがある。すべては流れている。その流れにはいくつもの方向性がある。風はそれが吹き抜ける限り、その方向性をもっている。

 世界は流れていき、あるときあるりんごを所有する。そのりんごはそのりんごとして、その方向性をもつ。世界とはつまり個別にある方向性の束であり、無数といっていいほどの方向性が交差しながら、何かが何かであり、他の何かになろうとしている。そうした現象は原初的な無限拡散する力を押し留めようとする閉鎖力によって方向をもつ。方向が生じていく。無限拡散する世界は閉鎖力によって押しつぶされようとしながら抗いいずれかの方向へ向かっていく。