その588

 無の瞬間に実在する何かはない。永遠にない。無は一切皆空であり、あらゆる実在の否定の上に成り立つ。いや、すべての実在を否定する力など、無にはない。無は一切の力を持たない。あらゆる力を持つことなく、何もない世界。世界と呼ぶこともない何か。何でもないというか、何かとして呼ばれることのない無は無という呼び名も否定する。無をいかに定義するか、それは定義の問題ではない。定義することのできない何か。どこにも何もない世界。そこに世界はない。世界が消滅したとき、何が残るだろう。何一つ残ることがないのであれば、無だ。無は徹頭徹尾、何もない。何一つない。