その280

 無は一切の記述を受け付けない。何もないことを言葉で捉えることはできない。何もないことがどういうことなのか、それは説明することではない。ひたすらに何もない。何もないといえば、何かがあることの裏返しになる。いや、何もない。ただそれだけのことかもしれない。何かがあることをもとに何もないと考えることは違う。何もないことは何もないことしか意味しない。何一つない世界は認識できない。認識できるのは何かがあることで、何かがないことはそれがないことを理解することはできるが、そのなさについて、いかなるなさなのか、それを認識することはできない。できないというか、なさそれ自体のいかなるかはどこにもない。どこにもないものがいかにないか、それを知る者はいない。ないものはない。そのいかなるかもない。ないものが徹底的にない。何一つないとき、そのなさがいかなることか、それを知ることはできない。存在の欠如はそれが何であっても、そのいかなるかは実在しない。あることにおいていかなるかがある。ないことにおいてはそのいかなるかもない。あることのみ、そのいかなるかを知る。ないこと、それが一切そうであれば、そのいかなるかは、完全な存在の欠如として、何一つとしてその関係にない。あらゆる関係性を失ったとき、その何かは消え去ってしまったことになる。関係を保つことで何かがある。どこにもなくなってしまった何かはあらゆる関係性を失ってしまったことになる。