その578

 認識は世界の全体に対して不完全だが、その認識自体は我々にとっては成立しているといった意味で完全だ。完全だから私たちは認識を持つことができる。そうだと思う。なぜ、そうだと直感できるのか。直感とは何か。つねに直感が正しいわけではないとき、直感は我々の認識内で誤作動していることになる。認識には、つねに正しいことばかりが含まれているのではない。誤った事実と正しい事実を認識は含んでいる。何かをこう認識しているといったとき、それが必ずしも正しいわけではない。認識を持っていても、それが正しいかどうかは定かではない。認識内に正しさと誤りがあるとき、我々はいったい何をいかに認識しているのだろうか。認識していても間違っている。認識していて間違っていない。そのいずれかであるとき、認識なるものはいかにあるのかと一口にいうことはできない。ある認識を持っていても、そうかもしれないがそうでないかもしれないとき、認識それ自体はつねに不完全にある。完全な認識が実在しない以上、完全な認識は実在せず、それ故に認識なるものは正しく実在しない。何かが正しくあるとき、それはつねに正しくなければならない。つねに正しくある認識が実在しない以上、完全な認識は実在しない。不完全でもあるものはある。