その20

 りんごのなかった世界にりんごができあがるために必要だった要素はなにか。何と何があれば、りんごは生まれるのか。必要な要素があれば、りんごはできる。しかし、必要な要素は無から生じたのではない。流れの中にある万物は情報の移り変わりである。方時もその停止にはない。運動がある。世界は震えである。震えを震えのまま捉えることが認識ではないか。止まった数値は実存的ではない。

 数値は世界を捉えていない。存在はその質である。質とは微細な差異の運動性により構築される実存的幻影である。存在にとってはそれ自体でしかない質感は私たちにとっては実存的幻影なのである。そのものを可能な限り捉え切ろうとしたときに最終的に残存するのが存在の質感である。存在そのものを捉えきれないことから意味されるのは、存在そのものと私たちには相互に距離がある。埋め尽くすことのできない距離がある。存在と私たちのあいだにあるのが質感である。絶対的な数値が存在と私たちのあいだにあるだろうか。存在とはその変容である。移り変わる情報である。方時も止まることのない存在をそれでも捉えようとするとき、私たちは私たちの機能に依拠するしかなく、その関係性の上にある質感とは、存在を感覚したときに浮き上がってくる幻影的実存であり、それ以上にない現実の行き止まりではないか。世界とは質的変容の結果のうえに存在している。