その567

 何か一つでも自在にどこへでもゆける何かがあるだろうか。すべては自らのもつ構造的限界とその外部にある空間的限界によって自由自在に動くことができない。完全なる自在さはあり得ない。存在するすべての方向へ向かうことのできる何かは実在しない。制限付きの自由の中で振る舞う物質のすべて。すべての物質は、その向かっている方向が制限されている。制限のうちにそれでも自在さがあるのは、進んでいる方向に進んでいる何かが流れているからだ。すべてが流れのうちにあり、しかし、すべてが流れそれ自体であるのではない。世界は一個の多様な方向を含んだカオスだ。個別にある物質が様々な方向へと向かっている、その総体が世界であり、何かが向かう方向とは無関係に向かう何かがあるのではないか。何かが向かう方角に影響されて向かおうとする方向もまたある。何かが動けば、その関連で動くなにかがあっても、何かが動いたからといっても、それとは無関係に動いている何かがある。世界は常に新しい関係性を築いていくのであって、初めから終わりまですべてがつながっているのではない。つながっていることもまた切断されることがあり、切断されたことが再びつながることがある。総じて、すべてがつながっているわけではない。