その229

 記号とはその閉鎖系のことで、それ自体の存在がそれ自体のうちで完結している。外部との関わりを持たないのが特徴である。それゆえに、その価値がある。明白で理解しやすいのが記号の特徴であり、その有用さである。実際の存在はしかし、関係性のうえで実在する。閉鎖系ではない。りんごは、りんごであることが可能となったことで実在しているのであり、あり得ているのである。あるものはありえている。ありえているものがある。

 記号はその内実をもたない空虚である。外観だけを捉えたような指示機能が記号にはある。そうした記号を組み合わせることで、意味を構築していくことができるが、その結果が存在のあり方へ影響を与える。記号の組み合わせでできた意味が存在を捉えるとき、あるいは、存在は記号により動かされるといっても過言ではない。物質レベルで、記号が物質を動かすとき、記号は運動の動因になる。記号が物質へ運動を与えるとき、その意味するところは何か。

 りんごはいかに記号からの影響を受けているのか。記号からの影響を受けたりんごはどうなっていくのか。その外部を持たない記号がその外部にあるりんごにいかに影響を与えるのか。りんごの動因となる記号とはどのようにある存在か。それは数式がりんごを動かすようなことではないか。記号が集まって構成される数式が存在に対して働きかけるとき、記号的存在である数式が、物質レベルにおける存在を動かしていることを意味するのではないか。確かに数式が存在を動かしている。数式により構築された意味が存在を物質レベルで操作している現実がある。数式はそれ自体の完結にあるが、その算出する結果が存在の物質性を変えていく。変えられた存在にとって、数式はその動因であり、エンジンのようなものとなる。存在に数式を組み込むことで、その動きが新しく変化をする。存在を内側から変えていく力が数式にはある。できあがった数式は存在について語る意味合いもあるが、存在について語る数式は、存在の内側に入り込んで、その物質性を変えてしまう動因になる。数式とは現象を捉えた記号である。それ自体が現象を示す数式は、他との関わりを持つことで、存在に新たなる現象をもたらす。